10代の頃に読んでいたバイク雑誌の記事の中で、シノゴ(4×5)の大判カメラを持ってBMWのバイクに乗り、道を撮影するために世界を一周しているライダーがいることを知り、興味を持ったのが道の写真を撮る最初のきっかけでした。「道を撮る」ことが作品になるなんて思ってもいなかったので、大きな発見でした。その時はまだカメラマンとしての仕事は始めていませんでしたが、以降は、プライベートで全国をバイクで走りながら、「道」と「風景」とのバランスを意識してカメラのファインダーをのぞくようになりました。
  フリーのカメラマンになってからは、風景の中に美しく馴染んでいる彫刻のごとく、風景の中にある道(アスファルト)を造形物としてとらえ、それをアートという視点からカメラで切り取り、見た人に「この風景の中で車やバイクを運転してみたい」と思わせる作品を撮りたいと思うようになりました。ただ、今私が撮っている道の写真に至るまでには、“迷走”もしました。若い頃は、カメラマンとしての自己主張がしたくて、赤いフィルターをかけて奇抜ことをやってみたり、ぼやかしたり、画面を斜めにしてみたり、そんな変化のある作品をたくさん作っていました。でも、そういう表層的な変化は時間が経つと飽きてしまうし、同時に、それらが自己満足の産物にすぎないことを時間とともに理解しました。それからは、写真の原点に戻り、オーソドックスなスタイルで被写体と向かい合い、そしてある風景と対峙すると決めたら、365日の中で一番いい日の、一番いい時間を狙い、その場にいることを何より大事にするようになりました。それこそが、一番「特別」なものを生み出せる手段であると確信できるようになりましたから。「狙ったコーナーの上に、あの角度から、いつ光が射すのか」なんて考えながらを数時間待つことなんてあたり前、雲海の上の道を撮影するために何年も通うなんてこともあたり前。そんな苦労は昔も今も一緒。だから面白いし、それが今でも同じ気持ちで道の写真と向き合えている理由なのかもしれませんね。

  国内でも海外でも、いろいろな道を走って、いろいろな角度から道を眺めてきましたが、はっきり言えることは人工的に作った道は美しくありません。人が歩いた跡が道になり、その道がアスファルトの道路になる。山の地形を壊さずに自然の中に馴染んでいる道ほどセクシーです。理屈ではない、まさに自然が作り上げた道は、それだけでストーリーを感じさせてくれますからね。そういう風景と出会えた時は、やはり興奮しますよね。意識してそこに来たわけじゃなくても「やっと、ここに来れたか・・」と、その風景との出会いがまるで必然であったように思えますから。
  また、いい道のバロメーターの一つになるのが、その道をスポーツカーやクラシックカーが走っているか否か。ヨーロッパやアメリカでは特に、休日になると、ロケーションが良くて走って気持ちがいい道には、決まって地元のツーリングクラブの連中などがドライブを楽しんでいるもの。最新のスポーツカーや年代物のクラシックカーがコーナーを抜けていく姿は、もうそれだけで1枚の絵になります。日本で言えば、日本の道路の最高地点を走る志賀草津道路などはとてもいい道だと思いますね。


  夜明けの1時間くらい前からセットを始め、30cm刻みでアングルを探り、3分刻みで変わってしまう空の色や光と相談しながらシャッターを切っていると、道の写真はつくづく生ものだなと感じます。だから、同じ場所だとしても、今日撮れた写真が、明日は撮れないんです。そう考えると、目の前の一瞬一瞬にいかに敏感になれるかということも、いい道の写真を撮るための条件と言えるかもしれません。

  道の写真を撮ることは、そのまま自分の旅にもなります。これまでに、日本はもちろん、フランス、スペイン、イタリア、オーストリア、ドイツ、ニュージーランド、オーストラリア、カナダ、アメリカ、メキシコなど、様々な国を旅して写真を撮ってきました。ヨーロッパなどは少なくとも5万kmくらい走っているはずですし、ニュージーランドでも2万kmくらいは走っているはず。海外の道を走っていて面白いのは、国境を越えるたびに、その国のお国柄が道に現れるということです。例えば、オーストリアとイタリアの国境。オーストリアはドイツと同様にアウトバーンだけでなく一般道路でも100km制限の道が多く、その分、精度が問われるので圧倒的に道の状態が良いのですが、イタリアに入ると、途端に道が細くなって、道自体の精度も悪くなります。その国の経済状況や歴史などによっても、道の表情が大きく変わってくるので、生きた勉強になります。


  今後は、南米のチリやアルゼンチン、イギリス北部の湖水地方やアイルランド、少し変わったところではルーマニアの軍事道路(トランスファガラシャン)なども撮影してみたいです。まだ出会ったことのない道への興味は尽きませんから。
  まさに、道を追いかける旅というのは、終わりのない旅ですよね。


  今改めて、「カメラ」と「道」と出会えたことに感謝しています。

KYB NEW SR MS/MC 広告写真提供

写真家五條伴好 氏プロフィール

  • ・1987年五條写真事務所設立
  • ・1987年WGPヨーロッパを撮影
  • ・1988〜89年インカラリー撮影
  • ・1989年東欧7カ国撮影後に出版
  • ・1991年ネイティブアメリカン撮影
  • ・1992年写真展「先住者たち」
  • ・1995年ライフワークの「道」の撮影始める
  • ・1993~99年アジア ヨーロッパ 北米等 30カ国を撮影
  • ・2001年「喜ばれる写真の撮り方」著者 学研
  • ・2003年「デジカメ必勝テクニック」著者 ジャストシステム
  • ・2005年「いつか走りたい道」がNAVIで連載写真始まる
  • ・2008年「道の記憶」がアウトライダーで連載始まる
  • ・2011年「道のあるシーン」がル・ボランで連載始まる
  • 「World's end story」がモトナビで連載始まる
  • ・2013年写真集「TOUGE」発売
  • ・2013年第64回全国カレンダー店 TOYOTA86 第三部門 銀賞
  • 第61回日経広告賞 TOYOTA86シリーズ新聞広告 最優秀賞
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